中小企業診断士の論文審査で生成AIを使った話

中小企業診断士以外の方には全く関係がありませんが、中小企業診断士は時代とともに変わる「経営」を扱っているので、5年に1回の資格更新を行うことが義務付けられています。

いつもは経営者向けのブログを書いていますが、今日は中小企業診断士向けのお話で、論文審査について記録を残しておこうかなと思います。診断士になって4年目の方とか、「そろそろ更新要件について考えないとなー」という方にご一読いただけたら幸いです。

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中小企業診断士の登録更新要件と論文審査

まずは基本の振り返りとして、現行の中小企業診断士登録更新制度について整理しておきましょう。中小企業診断士は5年間の有効期間内に以下の要件を満たす必要があります。

  • 実務要件:5年間で30日以上の経営診断・助言実務、または実務従事事業への参加。
  • 専門知識補充要件:5年間で5回以上、理論政策更新研修を受講すること、またはこれと同等以上の実務等(論文審査の合格など)を行うこと

今回スポットを当てるのは、後者の専門知識補充要件における「論文審査」です。 指定されたテーマ(必修テーマ・選択テーマ)に沿って論文を執筆・提出し、合格すれば研修1回分(1点)としてカウントされる仕組みになっています。診断士に求められる高度な専門知識や論理的思考力、実務的洞察が厳格に審査されるべきプロセスです ね。

論文審査の申込み

論文審査は一般社団法人日本中小企業診断士協会連合会(6300円)や、実践クオリティシスステムズ(7850円)、大塚商会30000円!)などが行っています。毎年の理論政策更新研修をサボっていた方は、複数のところに申し込めば、その遅れを取り戻すことができそうですね。

特にこだわりが無い方は、一番安い一般社団法人日本中小企業診断士協会連合会に申込みましょう。申し込んでお金を振り込むと、受付確認の連絡と、論文審査用の議題が送れれてきます。なお2026年1月に私が申し込んだ時は、受付がスルーされていました振込から1週間経過しても連絡がなかったので、電話で問い合わせてようやく受付されました。

ちなみに、私が申し込んだ時は受付番号は226番でした。少なくとも毎年数百人の中小企業診断士は論文審査に取り組んでいるようです。中小企業診断士の総数は約3万人なので、論文審査にチャレンジする方は1%未満っぽいです。

論文審査のフォーマット

送られてくる「論文の提出について.pdf」を確認したところ、論文の提出には次のようなフォーマットが求められていました。

ファイル形式や文字数の規定はまぁ理解できるとして、1ページあたりの文字数や文字の大きさに関しての書式は「なんだかなぁ」という感じですね。そこまで決めるんだったら、そっちでフォーマットを用意しておいて欲しいものです。仕方がないので、Wordで文字組をして、1ページあたり40文字×30行、フォントのサイズは10.5ポイントになるファイルを作成しました。

せっかくなんで、このフォーマットはここからダウンロードできるようにしておきます。MacのWordで作ったので、Windowsだとちゃんと表示されないかもしれませんがご了承下さい。「役にたったよ!」という方は、お問い合わせから一言下さい。

生成AIで作成した論文を提出

さて、論文フォーマットを用意して書くぞ!と思っても、なかなか筆が進まないのはよくある話。そこで、生成AIの力を借りて作成してみることにしました。するとなんと、ものの数分でそれらしい3200〜4000文字の論文ができてしまいました

けれども、そのままでは読みにくい箇所があったり、中小企業診断士としての現場の肌感覚で「なんかちょっと違うな」と感じる箇所があったので、ちょこちょこと修正する必要はありました。その他にも、問題文に「具体的な事例を交えながら論じよ」と記載があったので、実際の支援実績を紹介したりとかしました。

2本の論文を合わせても30分くらいでしょうか。フォーマットを作る時間を除いたら20分くらいだったかもしれません。我ながらよく書けたものです。せっかくなんでこれもアップロードしておきましょう!

100点満点の審査で、60点以上が合格とされています。この論文が何点だったのかは分かりませんが、少なくともこのくらいの内容で論文審査が合格になるんだという参考になれば幸いです。支援先の話を書かせていただいたので、その部分は墨塗りしてあります。

必修テーマ(PDF)

選択テーマ(PDF)

論文審査に合格

2026年1月に提出した論文は、審査してもらって、同年3月に無事に合格証が届きました。やったー。何歳になっても合格証をもらうのは嬉しいものです。この合格証は資格更新の時に提出すると、専門知識補充要件の1件としてカウントしてもらうことができます。

審査制度の形骸化

論文審査と対を成す理論政策更新研修では、4時間くらい話を聞く必要がありますので、かなりの時間を取られてしまいます。論文審査の方は、生成AIを活用すると数十分で終わってしまいます。

果たしてこの制度が「専門知識補充要件」として適切なんでしょうか?私は以下の3つの観点から、登録更新制度が形骸化しているんじゃないのかなと感じました。

  1. 専門性の担保に対する疑問:診断士に求められるはずの高度な知見が、AIで代替可能と判断されてしまっている現状。
  2. 審査プロセスの不透明性:AI生成物と、人間が現場で培った実務知見の区別ができず、審査基準が曖昧になっている可能性。
  3. 公平性の欠如:実直に自らの実務に従事し、時間をかけて執筆する診断士と、AIによる自動生成を利用する者の間で、負担と評価の乖離が生じている点。

経済産業省(中小企業庁)への提言

私はギバーおせっかいな性格なので、制度の信頼性維持と、中小企業支援の質を維持・向上させるため、私はこの実態を報告するとともに、審査体制の見直しを求める提言を経済産業省(中小企業庁 経営支援部 経営支援課)へ提出しました。

提言内容は、主に以下の3点です

  • 生成AI利用に関する明文規定の策定:論文作成におけるAIの利用範囲(どこまでが許容され、どこからが不可なのか)を明確にし、更新者に周知すること。
  • 審査体制の高度化:AI検知ツールの導入や、具体的な企業支援の文脈を重視するなど、実務との整合性をより厳格に問う記述形式への変更。
  • 実務要件の再定義:AI時代において、中小企業診断士が発揮すべき本当の付加価値を再定義し、形式的な論文審査に留まらない実効性のある更新要件へ刷新すること。

中小企業庁からの回答

そうしたら、中小企業庁から丁寧なお返事をいただきました。お忙しい中、提言をお聞き入れいただき本当にありがとうございます。お返事の内容は概ねこんな感じです。

AI技術の進展により、生成AIにより作成されたものか本人が努力して書いたものについて、見分けがつけられ難くなっている。生成AIの可能性があるということで排除することも難しいのが現状。

なるほど、確かにそうです。中小企業庁もAIを活用した論文については、既に認識していらっしゃるようです。「AIっぽいから」という疑いだけで不合格にすることはできないという実情があります。

一方で、AIの利用そのものを全否定しているわけではない?ような見解もありました。

現段階の対応としては、案内紙にある「他から文章や図表を引用する場合は出典を明示する」といった従来の執筆要領をベースに、既存論文の丸写しや出典明示のないものについて減点等の対応を行うに留まっている。

AIを活用した執筆そのものが問題ではなく、使う側の高いリテラシーが求められれているというわけですね。たぶん。

結び:私たち診断士自身への問い

今回の実験と提言を通じて浮き彫りになったのは、「AIが滑らかな正論を出力できる時代に、私たち中小企業診断士が発揮すべき「真の付加価値」とは何か」という本質的な問いです。

綺麗な言葉並べや、既存のフレームワークに当てはめただけの報告書・論文であれば、すでにAIが人間と同等以上のクオリティで、しかも一瞬で作成できてしまいます 。だからこそ、今後の更新制度はもちろん、日々の実務においても「AIに代替されない、現場に根差した一次情報や泥臭い実践知」をどう示していくかが、資格の信頼性を維持する鍵になるはずです。

生成AIという強力なツールをリテラシー高く活用しつつも 、形式的な要件を満たすことだけに終始せず、診断士としての真の専門性を磨き続けていきましょう。

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この記事を書いた人

千葉と東京を中心に中小企業の支援を行っている中小企業診断士です。千葉県中小企業診断士協会理事、生成AI研究会幹事。
2019年診断士取得、毎日着物生活は6年目に突入しました。穏やかな語り口と着物の見た目から、経営者の悩みを聞いたり、従業員の本音ヒアリングを得意としています。
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